お侍様 小劇場

   “睦夜花月” (お侍 番外編 88)

         *R指定描写のみのSSです。
          R−15 くらいで 大したものではありませんが、
          そういうのはお嫌いな方は 自己判断でお避け下さい。
 


いつもいつも穏やかで暖かいところにいて、
何にも脅かされることなくの、
甘く柔らかに微笑っていてほしい。

  そうであれと思う心に嘘はなく。

だというのに、
自ら進んで苦衷を負うよなところのある彼へ、
それこそ“そこへお座り”と懇々と諭したこと、
片手に収まらぬ数であったほど。

  我慢強くて芯も強くて、
  そうは簡単に手折られぬ君ではあるが。
  それでも、

余計な痛みを耐える姿なぞ見たくはないし、
ただならぬ苦労が多かったのだから 尚更に、
いつだって晴れ晴れとした幸いにくるまれていてほしい。

  そうと望む心に、一片の偽りもないのだけれど……。




       ◇◇◇



その帳
(とばり)の漆黒も、心なしか甘い気のする、
春も深まった とある宵の底の何処かにて。
重々しい作りの寝台だろうか、
乱暴な扱いに軋んだらしき、
ぎちりという物々しい響きが、
しんとしていた暗がりの中へと刻まれる。
頑丈な木組みが強く咬み合って生じた軋みは、
夜陰の中へと溶け込む直前、
それが立った原因の気配と なまめかしくも混ざり合う。

 「ん……ぁあ、や…。///////」

ぐいと大きく揺すぶられたことで、
喉に蓋した“こらえ”が撥ねて。
押さえ損ねてあふれた声は、
何とも甘く、切ない響き。
その身を襲う甘い痛みを どこぞかへ放ちたいか、
なにと思わぬうちから 閨の中 もがくよに、
嫋やかなその身が弓なりにしなう。

 「あ…っ。/////////」

幾度目だろか、再び襲い来た大きな刺激へ、
無意識のうち その束縛から逃れようとしてずり上がりかかるのを。

 「…っ。」

だが、背へと回されていた強い手が、押さえ込んでの許しはしない。
白い敷布の上へと縫い止められ、
結果、白いかかとだけが空しくも足元を擦ったのだろう、
さぁ…という衣摺れの音が微かに聞こえて来。
抱き込まれたことで間近になった壮年殿のお顔へ、
それもまた思わずだろう、うっすらとした笑みが滲んだの、
青玻璃の瞳が“どうして”と愚図るよに見上げ返した。

 「か…んべ、様。」

明かりを落とした暗がりの中だのに、
その白い肌や清楚な面差しは
隠れることも沈むこともなく、この眸へと届く。
細おもてのすべらかな輪郭も、
嫋やかな肢体を包み込む、なめらかで心地のいい肌の瑞々しさも。
誰の目にも留まらぬように、
いっそ総てを喰らい尽くしてしまいたいほど愛おしくて。

  「…シチ。」

名を紡いだだけで舌先が甘くしびれるような。
そうまで心酔してやまぬ相手だ。
日頃は無理強いなんてしやしない。
わざわざ強いたいとも思わない。
なのに、この夜の底ではどうしてだろか。
苦しげなお顔を見ることへの悦が、
すがる者相手に凌駕することへの浅ましき悦が、
この総身を震わせるよに沸き起こってやまぬ。

  大切にしたい、守りたい、
  心からの望みだ、嘘はない。

なのに、虐
(しいた)げて縋(すが)らせたいと思う心もまた、
この胸の何処かにあった真実らしく。
自分にだけ許されることと思う、途轍もない驕慢や傲岸さへの自覚さえ、
今はただ、血を滾らせる糧にしかならぬ。

 「あ…、やぁ…っ。////////」

血脈を沸かせる淫らな熱を、
息を詰めてやり過ごそうとこらえる彼の、
紛れもない苦しげな顔が、
喉奥から絞り出される声が、
今はただただ、こちらの雄を高めてやまぬ。
清かな光をたたえる青い双眸も、
品があっての粛々と、清楚に収まっている風貌も、
誰にも汚させるものかとしている真白き肌も。
乱して歪めていいのは自分だけだと思い上がってのこと、
何処も此処も我がものとの、印を刻むのに忙しい。
敷布に散らした金の髪を掻き乱し、
許しを請う声さえ甘美でならぬ。

 「やめ…っ。あ、ああっ!////////」

どこへも逸らせぬ熱を孕んだところを弄られ、
背中が浮くほどの抗いから、
ついのことだろ持ち上げた手は だが、難無く相手に捕まってしまい。
両腕まとめて頭上の空間へと縫い付けられたことで、
懐ろまでもがあらわにされて。
あらためてそこへと重なった熱い肌へと、
思わずだろう、細い吐息を零す様の、
何とも頼りなげで愛おしいことか。

 「ん…、あ、んぅ…。//////」

首元の柔らかな肌を吸われてのこと、
ぴちりと湿った音が立ったことさえ、
彼の側の羞恥につながるらしく。
体中の肌が熱く、
そのすぐ下を駆け抜ける震えは、
全ての感覚へと炎を灯すかのよう。
末端へ至るとそこで甘い痺れとなって、
熱に浮かされた その意識、
じりじりと容赦なく責め立てる。

  「ひぃ…あっ、…あぁっ。////////」

掠れた悲鳴が途中でよれる。
顔を、せめて頬を敷布へと擦りつけて、
その身を何かに押しつけねば もはや耐え切れぬ、
そうまで激しい感覚を、ひたすらやり過ごそうとする。

  「…………シチ。」
  「……っ。」

きつく寄せられた眉も、きゅうと閉じられた目元も、
声を縛ってのこと、千切れんばかりに咬みしめられた口許も。
苦しい辛いと、そうと示しているばかりだというに。
名を呼ばれたのへ律義にも応じたいか、
震える口許、はいという形に開こうとする七郎次であり。
切れ切れに吐き出される吐息も、応じを紡いでの健気なもの。
感覚も力も掻き乱されての、何とも侭ならぬ身を、
それでも懸命に応じて見せた彼だというに。
なのに…加減の利かぬは、
それこそ男の性根の浅ましさというやつだろか。

 「……あっ…や…。////////」

膝裏を押し上げられての無体を強いられて、
そのまま身の裡へと押し込まれた熱塊の堅さに怯え。
たまらず瞑った瞼の裏に、真っ白い光が弾けた気がして。

 「…っ。/////////」

一番最初の飛翔はいつも、
何処かへ攫われそうで怖くてたまらぬ。
何にか追われる怖さに慄き、必死ですがってその手を延ばせば。
堅くて雄々しい双肩が、そのまま降りて来、
温かな懐ろまでを導いてくれて。

  「あっ、や、ぁ…あっ!////////」

襲い来た波濤は体じゅうのあちこちを掻き乱したが、
頑なに握っていた拳を開けと、
手のひらへ差し入れられた勘兵衛の大きな手、
精一杯に握り返してやり過ごす七郎次であり。
力づくで奪うような求めへ、
翻弄されつつも懸命に応じる年下の情人が、
ただただ愛しくてならぬ勘兵衛だった。




       ◇◇◇



窓の外には久々に、
風籟の唸りも聞こえぬ静かな更夜が垂れ込めており。
そんな中をどれほどの合まで潜ったことか。
まるで…水を張ったシンクの中、
それだけが沈めずに浮かんだ柑橘のように。
長かったそれか、それとも刹那のものか、
意識がなかったらしい狭間から、ぽかりと泳ぎのぼって来。
互いの呼吸の乱れようしか聞こえなかった夜陰の暗がりを、
横になったまま、ぼんやりと見上げた七郎次であり。

 「……。」

体じゅうに無理から甘い蜜を流し込まれたように、
指先やあちこちの節々がじんわりと痺れたようになって動けない。
一体 幾たり達したことか、
思い出すのも億劫で…面映ゆい。
やっとのこと汗の引いた額を、
こしこしと擦り付けた先にあったものに気がついて。
それを見上げれば…愛しいお人がこちらを向いて眠っておいで。
自分をその双腕
(かいな)へと抱き込んだまま、
いつもの どこか気難しそうなお顔で眠っている彼であり。
今宵は随分と無茶もされたが、
それでもそんな年上の情人が、七郎次にはどうにも愛おしくてならぬ。

 “勘兵衛様…。”

至るそのたび強ばるこの身を、包み込んでの離さぬ男の肢体が、
あまりに屈強で…頼もしく。
ああ、この人へ任せておればいいのだと、
途中のどのくらいからか、
淫靡な微熱の波へと素直に身をゆだね、
総身を走る甘い感覚へ、ただただ酔い浸った七郎次であり。

 「………。////////」

そんな彼を ひとときたりとも離さずにいた勘兵衛の肢体は、
壮年のというには凶暴が過ぎるほどに強かで。
自分もさほどひ弱な躯ではない筈だったが、
比にもならない精悍さが、怖いくらいに頼もしく。
強く鞣したような肌や、雄々しくも力強くうねる筋骨の感触、
それらが他でもない この自分を感じたいのだと、
さんざに蠢き、時に勢い余って乱暴を働きまでするの、
全身で触れて堪能し尽くした。

  “……。///////”

日頃の落ち着きや重厚さなぞかなぐり捨てて、
呼吸を急くほど夢中になってくれる。
掴みかかって掻い込むだけでは足りないか、
ご自分の身での重しまでかけて、逃がさぬ手放さぬとなさるのが。
そうまでの…恐らくは勘兵衛唯一の、
強き固執が向けられていることに通じているということで。
だが、以前だったら、形になる前に胸のうちから振り払ってた。
そんなの自惚れに過ぎないこと、
務めの上で…たとえではなくの本当に、
その身をそのお命を危険に曝しておいでの御主様だから、
その想像を絶する抑圧への相殺に必要ならば、
どんな我儘も暴虐も許されておいでなお人。
心尽くしたご奉仕をして当然であり、
こそりと嬉しく思うなぞ、
従者には許されはしない滸がましさだった。
今だとて、きっとの絶対、いけないことだと判ってはいるが、


  “……思うだけなら、構わないですよね?”


睡魔に負けてのとろとろと、眠ってしまいそうになりつつも、
まだ少し、今少し、
優しくも雄々しいお顔、眺めていたい独占してたいと思うのに。
その肩からこぼれて来ていた、
豊かに波打つ濃色の髪へ頬をつけ、
その暖かさへうっとり微睡む七郎次だった。





   〜Fine〜  10.04.29.





  *ウチにしては微妙なお話しでしょうか?
   いやいや、ダメさ加減ではいつも通りでしょうよ。
(苦笑)
   すぐ前のお話の続きみたいになっちゃいましたが、
   続きにしては本音丸出しですな。
(苦笑)
   小難しいお顔の陰で、実は…というか、ちらりとわずかにでも、
   こんなことも多少は考えてるのかも…ということで。


ご感想はこちらへvvめーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る